クピドについて
クピド(ローマ神名)は欲望を意味し、英語読みではキューピッド、アモルとも呼ばれ、これは愛の意、ギリシャでは性愛を指すエロスである。一般的にはウェヌス(ビーナス、アフロディ-テ)と軍神マルス(アレス)との息子とされるがその出生にはさまざまな異説がある。
クピドは有翼の愛の神で、彼の持つ黄金の矢はそれに射られた者の心に激しい恋情を植えつけるという話はあまりにも有名である。しかし逆に鉛を先につけた矢で射られた者は恋する心を失うのである。クピド=愛は人の心を自在に支配する。気まぐれに放つ彼の矢はしばしば重大な結果や悲劇をももたらすから、あなどりがたい存在であるが、愛のシーンによく登場する割には神話の中で主役を演じる機会はほとんどない。

ブロンツィーノ「愛の寓意」1545 油彩 The National Gallery, London
カラヴァッジオ「勝ち誇るアモル」1601-02頃 Gemaldegalerie,Berlin-Dahiem

クピドのいたずら
クピドは英語名で「キューピッド」というなじみ深い名前で、彼の容姿はキューピー人形のように背中に翼をつけた赤ん坊として表現されることが多い。でも時代をさかのぼると、クピドは少年や青年の姿でも表現されている。
どんな姿をしていても、彼がいたずら好きの愛の神であることに変わりない。魔法の弓矢で人の恋心を自由に操ってしまうのだ。こんな楽しい仕事は他にないだろう。
金の矢で射られた人は、クピドが選んだ相手を好きでたまらなくなり、鉛の矢で射られた人は逆に仕方なくなる。一目惚れや恋人同士の突然の分かれは、彼がいたずら心をおこしているからなのだろう。
でも彼はいたずら心だけから人の心を操っているわけではない。彼の母親である愛と美の女神ウェヌスの命令に従っていることがほとんどなのだ。

セバステチィアーノ・デル・ピオンボ「アドニスの死」1512頃 Galleria degli Uffizi,Firenze
アントニオ・デル・ポライウオロ「アポロンとダフネ」1473-74 油彩 The National Gallery,London

クピドへの懲らしめ
クピドの愛の矢は効果絶大なだけに、いたずらが過ぎると手ひどく罰せられた。まただれもがこの愛の神に好意的だったわけではない。とくに純潔の女神ディアナやミネルヴァの覚えはめでたくなく、目の敵にされる。

リッチ「アモルの罰」1706-07フレスコ Palazzo Marucelli-Fenzi,Firenze
「罰せられたアモル」ポンペイ壁画 Museo Nazionale Archeologico di Napoli
クラナハ「ウェヌスに泣きつくクピド」<部分>油彩 The National Gallery,London

クピドとプシュケクピドが自分で落ちた恋
愛の脇役クピドの恋の物語、神話ではなくローマのアプレイウスの小説「黄金のろば」にある一挿話、王女プシュケはウェヌスの嫉妬を買うほどの美貌だったがその彼女にクピドが恋をした。(自分の手を金の矢で傷つけてしまったからなのだが)そして、・・・何も知らない彼女は谷間の宮殿に導かれ、人間の姿のクピドと夫婦になった。二人はいつも暗闇の中で会い、彼の正体は秘められていたが、ある時つい眠るクピドの姿を見てしまった。怒るクピド、宮殿も消え、彼女は世界をさまよう。ウェヌスの無理難題もどうにか切り抜け、やっと冥界から箱を携えて地上に戻る時、開けてはならない蓋を開いたプシュケは深い眠りについた。最後にクピドの愛が彼女の眠りをといて二人は結ばれる。

ツッキ「アモルとプシュケ」油彩 Galleria Borghese,Roma
ジェラール「アモルとプシュケ」1798 油彩 Musee du Louvre,Paris


「西洋絵画の主題物語 神話編」美術出版社「ヴィーナスの片思い」視覚デザイン研究所編

筆:プント